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福島地方裁判所平支部 昭和33年(ワ)73号 判決

福島県石城郡小川町大字上小川字中小川十六番地

原告

佐藤ちよ

右訴訟代理人弁護士

増田梅蔵

福島県福島市五月町二十六番地

被告

菅井義男

県同市宮町十九番地

加藤富子

同所

佐藤政市

当事者参加人

右代表者法務大臣

愛知揆一

宮城県仙台市北一番丁六十四番地仙台法務局

右指定代理人検事

滝田薫

法務事務官 池田直衛

三浦鉄夫

遠藤清

福島県平市

大蔵事務官 金子富次

堀合梧郎

右当事者間の前記請求並参加事件について当裁判所は次の通り判決する。

主文

原告が被告等に対して有する昭和三十一年九月八日付の金銭消費貸借による貸金債権金五十万円について、原告はその請求権を行使出来ないことを確認する。

原告が被告等に対する請求を棄却する。

被告等は参加人に対し連帯して金五十万円を支払うこと。

訴訟費用は全部原告及び被告等の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は被告等に対し、その請求趣旨として、被告等は原告に対し連帯して金五十万円及びこれに対する昭和三十一年九月八日から完済に至るまで一ケ月金一万五千円の割合による損害金を付して支払うべし訴訟費用は被告等の負担とする旨の判決を求めると申立てその請求原因として、原告は昭和三十一年九月八日被告菅井義男に対して、金五十万円を支払期日昭和三十二年九月七日利息及び損害金として同月から毎月金一万五千円を支払う約定の下に貸与し、被告加藤富子及び同佐藤政市はこれが連帯保証を約したが、被告等はいずれもその支払期日が過ぎてもその支払をしないので、これが支払を求めるため本訴請求に及んだと陳述し当事者参加人の請求に対しては、請求棄却の判決を求め、その答弁として、参加人主張の事実の内原被告間に訴訟が繋属すること、及び原告が永山栄一外三名から現金百八十万円の贈与を受け、その主張の時期に平税務署長に対し、昭和三十一年分贈与税の申告書を提出し、原告が同年度贈与税として金四十二万五千円の納税義務あるに至つたこと並びに原告が右納税をしなかつたため右参加人が国税徴収法第二十三条ノ一第一項により昭和三十二年四月二十三日原告が被告菅井義男に対して有する前記債権を差押え、原告に対して同日配達証明郵便をもつて該債権差押通知書を送付し、原告が被告加藤富子及び同佐藤政市に対して有する債権についても昭和三十三年八月二十日該債権を差押え同日該債権差押調書謄本を、又同月二十一日差押通知書をいずれも送付したことは各これを認めるが、原告の滞納額が参加人主張のような額に達したことは知らない。尚原告に対する国税滞納処分によつて前記金五十万円の債権が前記差押のため参加人に帰属し原告にその請求権がなくなることはこれを否認すると陳述し立証として甲第一号証を提出し丙号各証の成立を認めた。

被告菅井義男及び同佐藤政市はいずれも原告に対して請求棄却の判決を求め、その答弁として、原告主張のように金五十万円を借り受けたことはこれを認めるが現在その返済資力がないから原告の請求に応ずることができないと述べ参加人に対してはその請求棄却の判決を求めその答弁としていずれも原告と同様の陳述を為し甲第一号証及び丙号各証の成立を認めた。

被告加藤富子は合式の呼出を受けながら本件最初に定めた口頭弁論期日に出頭しなかつたので、原告及び参加人の主張事実全部を認めたものと看做す。

当事者参加人国の指定代理人は主文第一、第三及び第四項同旨の判決を求めると申立て、その参加原因として、原告は被告等に対して本件訴訟を提起し、昭和三十二年(ワ)第七三号貸金請求事件として繋属中であるが、右貸付債権金五十万円については、原告に対する国税滞納処分によつて該債権を差押えその債権の取立は参加人に帰属し、原告において最早その請求権がない。即ち原告は川前村永山栄一外三名から現金百八十万円の贈与を受けたので昭和三十二年二月二十八日平税務署長に対し昭和三十一年分贈与税の申告書を提出した。よつて原告は昭和三十一年度贈与税として金四十二万五千円の納税義務を有するに至つたが、参加人の再度の督促にもかかわらず右贈与税を納付しなかつたので、参加人は国税徴収法第二十三条ノ一第一項により昭和三十二年四月二十三日原告が被告菅井義男に対して有する前記債権を差押え原告に対しては同日差押調書謄本を第三債務者である被告菅井に対しては同月二十四日債権差押通知書をいずれも配達証明郵便をもつて送付し、ついで被告菅井の保証人である被告加藤富子及び同佐藤政市に対しては昭和三十三年八月二十日債権差押を為し、原告に対しては即日差押調書謄本を、被告加藤及び佐藤に対しては各同月二十一日債権差押通知書をいずれも配達証明郵便で送付した。而して原告の滞納額は昭和三十三年九月一日現在で、本税四十二万五千円利子税七万百二十円延滞加算税二万一千二百五十円滞納処分費七百五円計金五十一万七千七十五円に達しているので原告及び被告等に対して主文掲記の判決を求めるため民事訴訟法第七十一条によつて参加申立をした次第であると陳述し、立証として丙第一号乃至第四号各証、同第五号証の一、二同第六号乃至第十六号各証を提出し甲第一号証の成立を認めた。

理由

被告菅井及び佐藤が原告から原告主張の約旨で金五十万円を借り受けたことは同被告等の認めて争わないところであり、被告加藤は右事実を自白したものと看做されるので参加人主張のような差押の事実がなければ被告等全部は連帯して原告に対し右金五十万円の支払義務あることは明らかである。被告等の資力不足につき右請求に応じ難いという抗弁はその理由がない。然るに原告が参加人主張のように永山栄一外三名から現金百八十万円の贈与を受け、平税務署長に対し昭和三十一年分贈与税の申告書を提出し、原告が同年度贈与税として金四十二万五千円の納税義務あるに至つたこと及び原告が右納税をしなかつたため右参加人が国税徴収法第二十三条ノ一の第一項により昭和三十二年四月二十三日原告の被告菅井に対する債権を、又昭和三十三年八月二十日同被告加藤及び佐藤に対する債権をいずれも差押えたこと並びにその差押及びその通知の手続を為したことは原告並に被告菅井及び佐藤の認めて争わないところであり被告加藤はこれを自白したものと看做される。尚昭和三十三年九月一日現在原告の右滞納税額等が本税四十二万五千円利子税七万百二十円延滞加算税二万一千二百五十円滞納処分費七百五円計五十一万七千七十五円であることは成立に争いのない丙第五号証の一、二及び同第六、七号各証によつて明らかであるから、国税徴収法第二十三条ノ一の第二項によつて参加人は右税額及び滞納処分費を限度として債権者たる原告に代位することになるので、本件債権の取立(編註、取立権の誤植か)は参加人に帰属し、最早原告は被告等に対してその請求権を行使して取立をすることはできないものといわなければならない。原告並びに被告菅井及び同佐藤は前記差押によつて原告の請求権がなくなる理由がないと抗弁するが、参加人がその参加申出において原告に請求権のないことの確認を求めるように記載している趣旨は、参加申出の全趣旨に徴して原告の債権の不存在を意味せず、結局前記取立の権能のないことの確認を求めるものと解するのが妥当であり、右法規の解釈上も前記のように取立の権能が参加人に帰属することは前記説明の通りであるから、右抗弁はその理由がない。

而して右取立人の権能が参加人に帰属したこと前記の通りとすれば、被告等は連帯して参加人に対し金五十万円を支払う義務あるものと云わなければならない。よつて原告の被告等に対する請求を棄却し、参加人の請求をその理由あるものとして、認容し訴訟費用について民事訴訟法第八十九条第九十三条の規定に従い主文の通り判決する。

(裁判官 梶村謙吾)

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